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「あとね、スペイン風のピンチョス作ってきたの。簡単なのだけどね。」
朝から店で用意したつまみが入ったタッパーを、次々紙袋から出していく。
「これはエビとアボガド炒めたの、カプレーゼ風、こっちはパプリカとアンティチョークのマリネで、これはミートローフ…こっちはなんだったかなー。生ハムメロンでしょ、アンチョビ風味のジャガイモ炒め、オリーブベーコン。」
「こんなにたくさん誰が食うの!?でも、すごく美味しそう。」
「ほんと?食べて食べて。デザートもあるんだよ!」
来る途中、この街で一番好きなパティスリーに寄ってケーキも買ってきた。時間が経っても大丈夫なように保冷剤もたっぷり持って来た。自分でものすごくテンションが上がっているのがわかる。今日のピクニックのためにすでに昨日からウキウキで買い物をして、こんなにつまみも作り過ぎたわけだ。綺麗な指先でピックをつまみ、いつものように美味しそうにユイは食べてくれるから、気持ちはますます浮上する。
「ルイはいつまで学校行くの?」
「秋からあと1年。出来ればバイトもキッチンの方したいんだけど、ほら前に『うちのお兄ちゃん』神経質だって言ったでしょ?なかなかホールのバイトが居着かないんだよね。代わりをひとり育てたら移っていいって言うんだけど、辞めさせるのそっちだろ、っていうね。ユイは?最近仕事何してる?」
「雑貨の買い付けとか、ファッションスナップ撮って日本に送ったりとか、引っ越し手伝いとか。あればなんでもやるけど。」
「ユイがメトロに潜伏してる時に会ったんだったね。面白い仕事だったね。」
「面白くないって。結構精神的にキツかった。一生メトロで暮らすのかと思った。」
「でもそれでユイに会えたから、俺は嬉しい。」
あ、つい言ってしまった。慌ててシャンパンをぐいと飲んで誤魔化す。
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