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「……漫画家?」
「プロ?」
「一応、たまに週刊で描かせてもらってる……」
「漫画だけで食べていけてるの?」
「んー、まぁ、なんとか」
「初めて会った、漫画家さんて」
「……だよな」
驚いた。
車の査定とかやってた人が、漫画家に転職したっていうの?
だけど、″おかもとひろ″?
聞いたことのない漫画家の名前。
貰った名刺に描かれているイラストは、大浦くんが描いたんだろうか?
少年漫画もコミックはわりかし読むけど、この絵柄も見た事はない。
「正直、売れてないよ」
私の表情から直ぐに聞きたい事を察知してしまう大浦くん。
気恥ずかしさを隠すように、コーヒーを飲みながら視線を外していた。
「なんて漫画描いてるの? 私、読める?」
″Hiro Okamoto ″
聞きながらスマホで検索していると、
「検索したら出てくるとは思うけど、俺と分かれてから見てもらうと嬉しいかも」
不意にその手に触れられて、ドキッとしてしまった。
「……そ、そうだね、照れ臭いよね」
「うん、でも俺が漫画描くキッカケになった作品の映画だったし、それを一緒に観ていた陣内さんだったから、秘密の職業打ち明けたんだよ」
″一緒に″
″秘密″
たまたま居合わせただけの私に、そんな風に言ってくれた事が嬉しくて、直ぐに言葉が出てこなかった。
触れられた手でスマホをバッグにしまいこむ。
「……どうして秘密?」
「まだ駆け出しだから。だから地元の連中には誰にも言ってない」
「そうなんだ……」
私ならソッコー自慢しちゃうかもしれないな。
あ、でも……
「そういえば、盆か正月に同窓会あるみたいだよ」
「え」
「そんな内容のメール来てたよ、陣内さんにも来た?」
「……あ、ううん」
私、あんまり自慢する人いないや。
「行こうか迷ってるよ」
正直、人付き合いとか面倒臭くて。
高校卒業してから、あんまり同級生とかと会ったりはしてなかった。
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