純 倫 愛

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「え、また役員になったの?」 週明け、ミーティング終了後、所長との雑談の中で保育園でのくじ運の悪さを話すと、 「大変だなぁ、ま、土曜日も可能な限りない調整して休むといいよ」 「ありがとうございます」 行事が集中する土曜の休みも許可していくれると言ってくれた。 「だけど、仕事量が減るのは田丸さんちも痛手なんじゃない?」 所長が言うように、月給プラス個人で参加して獲得する出品報酬や採用報酬が、そのせいで減るのは正直痛い。 「そうですね、なるべく〆切前の平日に仕上げるように頑張ります」 皆でやるサイトの更新や大きなクライアントの仕事にまで影響は与えたくない。 「しかし、あんまり詰め込み過ぎると帰りが遅くなって娘さんとの時間が減るね」 35才、独身の所長。 理解もあるから、急な子供の病気の時もイヤな顔一つせずに休ませてくれる。 いい上司に恵まれて私は幸運だ。 「それは、仕方ないです。シングルの掟みたいなものなので……父親がいないからって子供の選択肢減らすような将来は避けたいので」 家庭以外に見つけた、自分の存在意義を示せる場所。 「ひなたちゃんだっけ、お父さんが居ない事で淋しい思いをしたりしてるの?」 ずっと、続けていきたい仕事と会社――― 「どうなんでしょ? たまに″ ひなたは、おじいちゃんがお父さんなの?″ って聞くことはありますけど」 「それは切ないね」 「うーん……一応説明はするんですけどね、″お父さんはもういないのよ″って」 ーーまさか、 「俺がお父さんになってやろうか?」 「はい?」 「俺が田丸さんと娘さんを養っていこうか?」 「……じょ」 「冗談じゃなくて」 そこに、新しい恋の可能性があるなんて思いもしなかった。
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