純 倫 愛

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「工場は、弟さんが主にやってるの?」 前に、お父さんが引退するから手伝いたいと言っていた。 「一応ね。忙しさはなくても弟に整備のセンスが無いから手伝わざるをえない」 「センス? 整備にセンスって関係あるの?」 「あるよ、どんな職種にも。故障の原因を見極める判断力とか無駄のない作業とか。弟は極めて臨機応変が効かないタイプ」 「へぇ……それじゃ心配だね」 「そう、お客さんが気の毒だから」 「……」 なんだかんだ言いながらも、大浦くん、車に携わる事も好きなんだろうな。 プロデビューしなければ、神戸でずっとそちらを続けていたかもしれない。 「漫画……もう、描きたくならない?」 一度叶えてしまった夢。 もう一度、見ることはできないの? 「東京にいれば、まだ作品を残す意欲も湧いていたのかもしれないけど……」 情熱を失うと、難しいのかもしれない。 桜を見上げ、ため息を漏らす大浦くんの横顔は、やっぱり思い悩んでいるように見えた。 さっきの大浦くんのお母さんと保育士の会話を思い出せば、その原因は何なのか聞かなくても分かる。 ……それでも、知りたい。 「瀬戸さ……奥さんは東京に?」 「うん、エステやら健康食品やら会社を大きく拡げてあちこち飛び回ってる……メイが二歳になった頃から殆ど家に寄り付かなくなった」 別れたあと、あなたは幸せを感じていられたのかーー
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