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声を出して注意したくても場所が場所だけに出来なくて、気付かない男の肩をトントンと軽く触ってみた。
「……え」
振り向いた男の顔を、この時初めてちゃんと見た。
ん……? どこかで見たことがある?
そう思ったけど、そんなことよりコーヒーだ。
『それ、私のっ』
口パクに近い声でそう言うと、
「あっ!?」
男は自分の右にあるコーヒーを確認して、焦ったように謝ってきた。
「ゴメンなさい」
何度も小さい声で謝ると、すぐさま席を立って館を出て行ってしまった。
……逃げた?
一瞬、そう思ったけど、シートにポップコーンが置きっぱなしでそうではないとわかり、
「本当にスミマセンでした」
新しいコーヒーを買ってきて戻り、私のホルダーに置いてくれていた。
「……あ、ありがとうございます……」
「……いえ」
わざわざ良かったのに。
半分以上飲んでたし。
それからは、席に戻ってきた男性のことばかり気になって、映画の最後まで見入る事はなかった。
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