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『 美生へ。
君とサヨナラしてすぐ、これを書いています。
最後まで自分の口で、本当のことを言えなくてごめん。
自分の手で宝箱を返すことが出来なくて、ごめん。
ちゃんと自分の口で真実を伝えて、自分の手で宝箱を返そうと思ってたのに、それをした瞬間に僕は君の前から姿を消さなければならないような気がして、どうしても最後まで、君に本当のことが言えませんでした。
僕が君を初めて知ったのは、ちょうど10年ぐらい前のことでした。
最初は大勢いる生徒の一人……ただそれだけに、他なりませんでした。
君が僕の中で特別になったのは、君が僕の目の前で鉄棒から落ちて、大ケガをしてしまってからです。
遊んでいる最中にケガをする子供は時々いたけれど、その後に僕にお礼を言いに来たのは、後にも先にも君一人だけでした。
ケガをしてしばらくしてから、君はまだ頭に包帯を巻いたままの状態で僕の前に現れました。
そうして僕に、こう言ったのです。
あなたの花びらがクッションになって、私は頭を強く打たずに済んだの。ありがとう……と。
それを聞いて、僕はとても驚きました。
僕はただそこに突っ立っていただけで、頭から落ちて泣いている君をただ見ていることしかできなかったのに。
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