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「ここで何してるん?」
階段状の親水テラスの一番下にいた吹雪さんは、段上で石碑などの写真を撮っている私の元までゆっくりと昇ってきた。
全く悪びれた様子もなく話しかけてくる彼に、私は激しい苛立ちと戸惑いを覚える。
『俺なんかやめとき』って言ったくせに。
私と距離を置きたいから、あんな嘘までついたんじゃなかったのか。
──── なのに、なんで。
なんでこんなに平然と、話しかけてくるんだろう。
色んな感情が込み上げてきて、私は強く唇を噛み締めた。
寒さと動揺で、カメラを構える手がカタカタと小刻みに震え始める。
(……アカン。……気持ち、立て直さんと)
感覚のない指先に、グッと力を込めたその時。
真横から、ふわっと首元に何かがかけられた。
驚いた私は、弾かれたようにすぐ脇にいた彼を振り仰ぐ。
首にかけられたのは、先程まで吹雪さんが巻いていた淡いピンクのマフラーだった。
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