2人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
◇
小さな窓から差し込んだ日の光を反射して、部屋を舞うホコリがキラキラと輝いた。
古びた図書館の主は、年と共に錆び付いた体にムチ打って本の整理を始める。
御年80歳、偏屈な爺の趣味で作られた小さな図書館の利用者は少ない。
1日に数名の読書家が訪れる他は隙なものであった。
すんと鼻で大きく息を吸い込む、古びた本の香りとホコリの臭い。今の彼を構成する世界の全てである。
「お邪魔するわ」
図書館の静寂を破ったのは、聞きなれない女の声。
顔をあげると、どこか人間離れしたような印象を受ける、ブロンド髪の澄んだ美女が入口に立っていた。
「見ない顔じゃが、旅人かね?」
「まあ、そんな所ね。あなたがこの図書館の司書かしら?」
「そんな所じゃ。では旅人さん、何かお探しの本でもあるのかね?」
女はニヤリと笑った。
「本というか、貴方の話が聞きたいのだけれど」
「ほほ、こんな枯れた年寄りに何を聞こうと」
「このあたりに、何か面白い伝説や伝承は無いかしら?」
年寄りの男はしばらく考え込むと、やがて何かを思い出したように本棚の一角へと向かった。
「ああ、あったあった。この本じゃな」
男が見つけ出した本は、表面にホコリが被っているものの、深緑色の装丁が美しいものだ
男はパラパラと本をめくり、お目当てのページを見つけるとそれを読み始める。
最初のコメントを投稿しよう!