自由という名の枷

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この日本では近年、死刑制度が廃止になり、無期懲役が極刑となって等しい。 そして新しい刑として、脳の外科的処理を施し、今までの全記憶を抹消して、再び健全な教育を受けた後、完全に新しい人間として社会復帰する、記憶抹消刑制度が始まった。 これを【life recovery】と言う。 「受刑No.第14763237岩崎リリ」 手術服に着替えさせられ、ストレッチャーに寝かされると、全身が痺れてきたように体の自由が利かなくなってきた、麻酔導入剤が効いてきたのだ。 担当の看守の呼ぶ声がやけに大きく、耳に障る、まだ意識の方は、確りしていて良く聞こえる。 「これより記憶抹消処置を行う」 記憶を消すに関して、なんの感傷も無かった、覚えているのは生きてくために犯した悪事の数々位だったから。 それでも、覚えの無い【母親殺しと放火】の濡れ衣を被せられ理不尽だとは思ったが、司法取引で罪を認めれば記憶抹消刑にしてやるとの申し出に乗ってしまった、それは記憶抹消刑なら処置を受ければ、すぐに無罪放免になると知っていたからだが。 でも、そんな時―― 必ず胸が痛くなる。 なぜか、心の奥底から、誰かの声が聞こえてくるような、そして心臓の鼓動が激しく高鳴る。 暫くすると胸の痛みは治まった。 最初から恐くなんか無かったけど、覚悟を決めたせいなのか。 真っ白く明るい手術室の中央には、巨大な機械が備え付けられていた、CTスキャンよりももっと大がかりな機械が異様な存在感を醸し出していた、近年の、特に脳外科手術においてはオートメーションシステム化が進んでおり、人間の施すオペより格段に安全で正確だった、故に機械のゴッドハンド達は各地で増えていった。 今、その機械の喉元に、私は頭部と両腕を固定されると、うつ伏せで磔にされたように、なす術無く、その時をただ待った。 そして麻酔の注射を射たれると意識が遠のく。 もう、私という人間はいなくなるのだろうか? 分からない。
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