∞1章∞

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──上京して何年だろうか。 ふと、俺は過去の自分に思い耽っていた。風呂上がりに。ビールを片手にソファーに寄り掛かるように座って。 俺は再婚した親に連れられ田舎から出てきた。故郷は田んぼだらけで人口も少なければ同い年も少ない町。だがテレビを観ていると、そんな田舎の割りには人口も同い年も多かった様だ。そんな町から都会へ出てきた。俺が中学に入って間もない頃の事。 何故、その数年前の事に思い耽っているかと言うと、今さっきからテレビで“故郷”をテーマに街角インタビューをしているある番組を観たからだ。 出身地、上京した理由、故郷での思い出、最後に一言。 この4つの質問をし、聞かれた通行人はインタビューを受けた事への驚き等から笑い、テンションが上がった状態で答え、中には最後の一言で『今度遊びに帰る』と観てるか不明な故郷の家族へ向けて述べる人もちらほらといた。 ―遊びに行く。会いに行く。顔を出す。 現在俺はまぁまぁ大手の企業に勤め、忙しいながらも充実した日々を送っている。家庭など築いて無いが“忙しい”を理由に親に会いに行かなければ故郷にも行っていない。所謂、“里帰り”を上京してから1度もしていない。 「1度くらい……顔を出してやるか」 全く会いに行かないと言うのもアレだし、長期有給休暇を取って故郷でゆっくりするのも良いだろう。そう考えながらビールを飲み干してベッドに潜り込むと、酔いのお陰か疲労のお陰か直ぐに眠りについた。
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