超・妄想コンテスト参加作品

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『エントリーシートで問われるのは、その学生がどんな人間なのか。謂わば人柄が問われているんだ』 父親はこれでも、中堅企業の人事部長の職に就いている。 『中途採用の履歴書や職務経歴書からは、その人物の技能・資格・実績等がわかるんだが。その点、学生には仕事に役立つ技能や実績がない分、人柄やポテンシャルを見るしかないんだよ。 ESに必ずある趣味や特技の目欄は、 当たり障りなく書けばいいなんて軽く考えていると、痛い目にあうぞ。その項目で面接官の興味をひくことができたら、会話も弾むし、好印象を与えることもできるからな』 さすがは人事部長…か。 『趣味は大きな自己PRになるんだ。熱中した物事への取り組みを通して、その学生の長所を見ようとする意図が、企業側にはあるんだからな』 『へえ、そう』 母親と大姉は勿論、小姉までが他人事のように感心して聞いている。 『だったら、ネット系の趣味って良くなくない?』 大姉が何気にダメ出しを入れた。 『そうね、なんか引きこもりって感じがして、陰湿に聞こえるわよね』 母親も、眉をしかめた。 『まるでタカ坊みたい』 『マジで!』 大姉が言って、小姉が驚くタカ坊とは僕のこと。隆志と正式に呼ばれたことは、記憶にある限り一度もない。 『僕は引きこもりじゃないよ』 『だって勉強ばっかりしてんじゃん。いくら成績が学年一で、このまま一流の大学に入ったとしても。他に趣味や取り柄がなけりゃ、社会に出ちゃちゃやってけないよ。私しゃ、それが心配なんだよ』 『タカ坊はお勉強が趣味なのよ。お姉ちゃんたちとは違うの』 母親は大姉のオバチャン度が、半端を超えていることに、気がついていないんだろうか? それに僕にだって趣味はある。 でも、それを話したところで理解してくれるはずもなく…だから僕には、 誰にも言えない秘密の趣味 を、持っていることになるわけで… やはり、肌が合わない。
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