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『いずれにしろ、趣味が多すぎるのは良くないな。その分、集中力や目移りが激しいと捉えられて、マイナス材料になるのは間違いない』
『いやだ、多趣味のお父さんに言われたくない』
『そうよ、あなたこそ趣味が多すぎるんじゃないの』
父親はゴルフに始まり、釣り、登山、スキューバーダイビングにサバイバルゲーム。あげくは囲碁・将棋倶楽部にも顔を出している。アクティビティな人だ。
『多趣味のどこが悪い』
父親が開き直った。
『なら私だってどこが悪いのよ!』
『俺は社会人の一端を担う人事部長で、お前はただの就活生だろ。この差は歴然として、立場が違う!』
『だって同じ人間でしょ!』
『あんたの多趣味はお父さんに似てんのよ。だけじゃなくて、目元や鼻の形なんかクリソツじゃん』
大姉が笑い転げる。
『その言われ方、好きくない』
『好きくないとはなんだ!』
喧騒としてきた中で突然母親が、
『タカ坊は誰に似たのかしら?』
『そうだね。勉強以外になんの特技もないし。高2にもなって彼女もいないでしょ。あんた、ファーストキス……
まだでしょ』
こ……この、デリカシーのかけらもないところが、どうしても肌に合わない。
『ねえねえ、話しは変わるんだけど。私のセーラー服ってさ、まだ何処かにあるかな?』
『就職活動にセーラー服を着ていくの?』
『まさか。今度の新入部員歓迎会でねコントをするの。その時の衣装に必要なのよ』
『落研がコントをするってか?』
小姉は多趣味が高じて、落語にも手を出している。
『隠し芸が落語じゃ、洒落にならないでしょ』
落語も充分に隠し芸だと思うけど…
『タンスの引き出しとかにしまってないの?』
『それが何処を探してもないのよ』
『もう捨てたんだろ』
父親が無愛想に結論を出した。
『なら、お姉ちゃんのを貸して』
『いつの時代のことを言ってんだい。とっくにどっかへいっちゃって、見つかるわけないっしょ』
『捨てたの?』
『捨てた記憶はないけど、もうわかんないよ』
『私も捨てた記憶はないのに。でも、何処を探しても見つからないのよね。お母さんがしまったの?』
『知らないわよ』
『じゃあ、なんでないのさ』
嫌な間が空いた。
『タカ坊…』
姉たちが一斉に顔を向けてきた。
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