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腹立たしさを通り越し、もはや気味が悪いと感じられるその男を凝視する。その瞬間気づいた。
この顔…今流れてる映画に出演している人だ。
え? 俳優さん? 俳優さんが自分の出演作品を見ながら独り言を言っているのか?
状況が掴めず、しばらく相手を見ていたら、ふいにその顔が恐怖に歪んだ。
「いやだ! いやだ! 死にたくない! いやだーーー!!」
映画館にも関わらず相手が絶叫する。その瞬間、館内に映画の効果音が轟いた。
咄嗟にスクリーンを窺うと、そこには、この俳優さんが演じる役の男が死んでいる場面があった。
この人は、自分が死ぬ場面を見て怯えてたのか? …だったらどうしてわざわざ映画館に来たりしたんだ?
まったくもって訳が判らず、もう一度男のに視線を戻す。でも、そこには誰もいなかった。
いくら暗がりといえど、真後ろにいた人の気配くらいは判る。その相手が動きでもすればなおさらだ。それに、目を離したのはごく僅かな時間だ。とてもこの場を去れる隙はなかった。
その後、真後ろに人が来ることはなく、館内は静けさを取り戻したが、もう俺の意識は映画を見るどころではなくなっていた。
ちなみに映画の後、もしやと思ってあの俳優さんのことをネットで調べてみたが、本人は健在だし、撮影中に事故や不思議な現象があったという話もなかった。
結局、あの日映画館に現れた俳優さんらしき人物は何だったのか、それはいまだに解けない謎のままだ。
映画館にて…完
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