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映画館にて
休日出勤の代休をもらい、久しぶりに映画館に行った。
平日の真昼だ。客席はガラガラで好きな場所に座り放題。いやむしろ俺の貸し切りという印象だった。
画面を見やすい場所に座り、上映を待つ。館内が暗くなり、そろそろ予告やCMも終わるという頃、背後に人が座る気配がした。
空席だらけなのにわざわざ人の近くへ座るのか。一瞬そう思ったが、スクリーンの見やすさを考えるとこの辺りに座りたいのは納得だ。
前ならともかく、後ろならよほどのことがない限り邪魔にはならないだろう。そう思い、俺は映画に意識を向けた。
映画が始まってものの数分で、俺はさっきの意見を前言撤回した。
後ろの奴が終始何かぶつぶつ言っているのだ。
テレビを見ながら独り言を口にする奴は結構いるけれど、映画館でそれはやめろ。
一言注意してやろうか。でも、世の中最近物騒で、いきなりキレて刃傷沙汰を起こす奴とかもいるからな。
とりあえず、真後ろじゃなきゃもう少し耐えられるだろうと、二つ程隣に席を移した。でも、俺のそんな行為は徒労に終わった。
一瞬遠くなった独り言がまた真後ろから聞こえる。どうやら後ろの奴も席を移動したらしい。
これって、完全に俺をターゲットにした嫌がらせだよな。
さすがに放置はしていられなくなり、俺は立ちあがって相手を睨みつけた。でもすぐに、そいつの様子が変だということに気がついた。
俺の方を見ようともせず、だからといって必死にスクリーンを見る訳でもなく、どこを見ているのか判らない顔つきでまだぶつぶつ言っている。
関わっちゃいけない系のヤバい奴だと思ったが、なんとなく、小声でずっと何を言っているのかが気になり、耳を傾けてみた。
「…どうして。どうして俺が死ぬんだよ。こんな理不尽死に方しなきゃならないんだよ。いやだ。いやだ。いやだいやだいやだ。死にたくない。死にたくない…」
何なんだコイツは。完全に頭がイカれている。
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