318人が本棚に入れています
本棚に追加
「カズくんも、辞めた方がいいよ」
「んー?」
「赤ちゃん、生まれるんでしょ」
ぽかん、と固まるカズくんの手から煙草の箱を抜き取って、ぽと、とベッド脇のゴミ箱に落とした。
ふふん。
これでもう、拾い上げる気にはなれまい。
「知ってたの」
「ちょっと前、職員室で聞こえた」
日直で教室の鍵を届けた時に、先生たちの雑談が耳に聞こえてしまった。
カズくんの奥さんは、今妊娠中らしい。
「だから私、カズくんからも卒業する」
薄い唇の隙間から、細く長く紫煙が昇る。
カズくんはやっぱり「ほーん」とだけ言って、枕に頬杖をついていた。
「胎児にも副流煙って良くないんだよ」
「家ではすわねーし」
「ほーん」
ほーん。
へー。
喜んでいいのか悪いのか。
軽んじられてる気もするし、私の前では気が抜ける、と言われてる気にもなる。
カズくんは実に美味しそうに煙草を吸うので、実は私は嫌いじゃない。
だけど。
きゅっ、とベッド近くの灰皿に煙草の火種が押し付けられて、最後に一際強い香りが周囲に漂う。
「最後にもう一発、シテいい?」
「あほか。帰る」
嫌いじゃないけどこの男は最低だ。
最初のコメントを投稿しよう!