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無数の冷たい、刃物みたいな言葉に切り刻まれて 家にも温もりはなく、一万円札が一枚、いつもテーブルに置かれているだけ 泣ける場所はどこにもなくて 温まる場所も見つからなくて 屋上から見える景色に、一歩足を踏み出そうとした時 引き留めてくれたのは、貴方だけだった。 あなたは、最低の教師だけど 私の全部だ。 私が知る、やさしさの全て。 温もりの全部。 だから優しく、別れてあげる。 「さよなら、センセ」 角を曲がった時、私は先生の背中を振り返ってそう告げた。 「じゃあな、笹原」 先生も、この角で初めて振り向いてくれた。 私は多分、上手く笑ったつもり。 桜は、まだ咲かない。 だけど四月になればきっと満開になり、はらはらと舞い散る花びらが私の背中を押してくれる。 その頃にはきっと、この涙も乾いているはず。 だからきっと、生きていけるよ。 さよなら、先生。 END
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