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「なぁ達哉!聞いてくれよーーー!」
無邪気に笑いながら手を振り、こちらに走って来るのは俺の幼馴染。
大学のキャンパス内を闊歩していた俺の足を止められるのは、たった一人お前だけだ。
「はいはい、どうしたよ?」
お前に声を掛けられるだけで、いつも俺は飛び上がる様に嬉しくなる。
その笑顔を抱き締めたい衝動に駆られる。
胸に秘めた熱い衝動をひた隠し、仕方ないなぁとあいつの笑顔を受け止めるのは、俺たちは何でも話せる幼馴染であり、親友であると言う体裁を保つ為だった。
「なぁ、天体観測やらね?」
「お前、星好きだもんな。でも、いきなり何?」
「サークルだよ!」
「ん?」
俺は首を傾げる。
こいつ、他人にはちゃんと順序立てて会話できる癖に、俺には昔からいつもこうだ。
単語、接続語、その他諸々が抜けている。
その態度が俺だけに向けられた物だと知っているから、その会話にも優越感を感じる。
この状況から推理すると。
「天体観測サークルに俺も一緒に入るって話?」
「さすが達哉!分かってるー!」
満足そうに無邪気に俺に笑いかける。
可愛い。
こいつ、今最上級に可愛い。
他の奴がコイツの可愛さに気付いたらと思うと、気が気じゃない。
鈍感なコイツは、まだ恋を知らない。
他者の色目もなんのその、その鈍さで全てを跳ね除けてきた。
生い立ちから、人間不信になったコイツが素直な状態で居られるのは、この俺の前だけなのだ。
「やっぱり、持つべき物は幼馴染兼親友の達哉サマですな!」
「ほお、感謝し給え」
「いつも感謝して居ります。本当大好きだ!」
そう言って俺に抱き付くコイツが、愛しくて仕方ない。
このスキンシップは、昔から俺限定で日常化していた。
いくら愛しいと思う相手でも、俺を親友として見ているコイツの過度なスキンシップには、思春期初期には戸惑ったものの、今はもう動揺しなくなった。
願わくば、ずっとこのままでいて欲しい。
恋心など、一生知らなきゃ良い。
そうすれば、親友であるこの俺がずっとお前の側に居られる。
誰よりも近くに居られる。
守ってやれる。
この笑顔は、俺だけに向けられたものだ。
誰にも見せたくない、愛しい人の姿だった。
報われないと分かっているこの恋だから、せめて一生このままで居たいと切に願った。
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