あいつに依存症

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朝日が部屋に差し込む。 薄っすらと目を覚まし、布団から身体を起こした。 あぁ、ここはホテルか。 寝起きの頭で考える。 灰皿を引っ張り、サイドテーブルにあったタバコに火をつけて一服する。 久々に幸せだった頃の夢を見た。 ふと隣に目を向けると、昨夜行き摩りで一夜を共にした男がぐっすり眠っている。 バーで引っ掛けたこの男が特に気に入った訳でもなければ、好きな訳でもない。 まぁ、行為自体は悪くなかった。 唯一肯定出来る事と言えば、この男があいつに似ていた事だろう。 しかし、もう2度と会う事はない。 現実と夢のギャップに、タバコを吹かしていてもイライラが収まることはない。 タバコを乱暴に灰皿に押し付けて火を消す。 脱ぎっぱなしになっている服を掻き集めて身に纏い、そのままの勢いでホテルを飛び出した。 大学を卒業してから1年半、今日は久しぶりに天体観測サークルの行事に参加する。 毎年、天体観測サークルは夏休み期間に合宿を行う。 それはOBOGと学生の交流を兼ねている。 合宿ではOBOGは学生時代を懐かしみ、学生は先輩から社会の厳しさ、仕事の大変さを聞いたりと伝統的に受け継がれている。 何か重大なイベントを行う事はなく、コテージにて1泊2日で飲み会をするだけだ。 スマホのメッセージアプリで同期生から日程が回って来た際、正直俺は興味無かった。 しかし、そのメッセージの最後に書いてあった部長の名前に見覚えがあった。 現在の部長の名前は、五十嵐涼太。 この名前は昔からよく知っている。 俺の幼馴染の弟の名前と一緒だった。 一番の理解者だった俺は、当然あいつの弟が同じ大学に入った事を知っていた。 その名前を見て、行く気も無かった合宿に顔を出す事を決めた。 あの日から、愛しい幼馴染との交流は無くなってしまった。 あいつの彼女を、よりにも寄ってあいつの部屋で寝盗った日から。 幼馴染への愛しさ故に、狂った俺の行動を理解出来る奴などいない。 身勝手な行動だと分かっていた。 でも俺は、俺の特権を奪ったあの女と、その女を選んだあいつを許せなくなってしまった。 あいつに彼女が出来てから、俺の幸せだった日々はことごとく崩れ去った。 親友として長い年月を掛けて築き上げて来た関係性は、すぐ侵食された。 その侵食と、愛しさを表現出来ないもどかしさ、報われない辛さから逃げ出したかった。
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