あいつに依存症

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* 『達哉!…俺、好きな子出来たんだよ』 照れながらも俺に全てを曝け出すお前。 恋を知った幼馴染は、嬉しそうにはにかんだ。 そんな顔、初めて見た。 俺に向けられたのではなく、あの女に向けられた笑顔。 『達哉!あの子と付き合える事になったよ』 俺の知らないお前の顔を見るのは、嫌だった。 『最近、俺の家に入り浸ってんだよね』 お前の新しい一面を知るのが、俺でなくあの女がきっかけなのは辛すぎる。 『いつの間にか物が増えててさー』 そんな話は聞きたくない。 『同棲みたいになったなぁ。でも嬉しい』 いつの間にか、笑顔の仮面をぶら下げる様になった。 あいつが惚気話を聞かせるたび、俺は分厚い仮面を作り上げていった。 俺が崩壊していく事に気付かないあいつは、のうのうと惚気た。 崩れそうな俺の心は、その場限りの男との行為でイライラを発散して保っていた。 いや、もうすでに壊れていたのかもしれない。 社会人になった後も、俺たちは変わらなかった。 あいつは相変わらずで、俺に色んな事を話す。 俺は、どす黒くて嫌なものは全て夜の生活で吐き出し、あいつの前では今まで通り親友を装った。 そんなある日、街中であの女を見つけた。 レストランから出てきたあの女は、俺たちと同じサークルだった。 もちろん親友の彼女なのだから、ある程度俺とも話す機会が多かった。 ここで声を掛けないわけにも行かず、挨拶を交わす為に一歩踏み出した時だった。 続いて出て来たのは中年の男。 思わず俺は隠れた。 二人は嬉しそうに話をしながら腕を組み歩き出す。 ダメだと分かっているのだが、その後ろを付けていった。 二人はそのまま、夜のホテルに消えていった。 ショックだった。 すぐ浮かんだのは、幼馴染が泣く姿。 あの女が大好きな俺の愛しい幼馴染は、こんなことを知ったらどうなるだろう。 俺たちの仲を侵食してまで割り込んで来たあの女が、事もあろうにあいつを裏切っていた。 許せなかった。 でも同時に、どす黒くて汚い俺の心は愛しい幼馴染の笑顔が最強に歪む瞬間を想像してしまった。 その顔を、見たいと思ってしまった。 可愛くて愛しいあの笑顔を、この俺の手で歪ませる事が出来たら、どんな快感なのだろうか。 考えるだけで自然と口角が上がった。 この時、崩壊してしまった俺の最低最悪な作戦はスタートしたのだ。
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