酒は飲んでも呑まれるな

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「係長からか。嫌な予感しかしないが、出ない訳にはいかないか。はい、谷川です」 「お~、谷川君。今どこにおる?」 「頭痛が酷くて、課長に断って早引きさせていただきましたが………」 「んな事は解っとる。これから遅々父駅に行ってや」 早退したというのに業務を振る係長。 「牛間舟渡の件で人がおらん。券売機に日本酒入れられて全滅らしいんや。馬谷駅(うまがやえき)の工具鞄使えばええやろ。頼んだで」 係長は返事も聞かずに電話を切ってしまった。 「まあ、事情が事情だし仕方ないか」 北斗があっさりと諦めたのは、係長が「他人に厳しく自分に甘い」人間だからだった。 以前40度の熱を出した北斗が電話で休むて言うと、立ってるだけでも良いから出社しろと突っぱねられた。 その癖本人は二日酔いで平然と休むのだ。 そんな上司であるので、抗議するだけ無駄な話。しかも、今は非常事態と言って良い。 何処かで料金過剰徴収等の不具合が見つかると、全駅の全券売機をチェックしなければならないのだ。 そうなれば休みの人間だろうと容赦なく駆り出される。 それが修理会社に勤める人間の宿命である。
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