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【原文】
俺の娘は不思議な力を持っている。娘を売りたいと話すボロ切れを羽織った壮年の男が、そう語っていた。
不思議な力とは、恐らく魔術の類だろう。男の話では、手の平に小さな火を出す事が出来るらしい。薪に火を点ける時に、よく少女に頼んでいたそうだ。
今回の獲物は魔術師の少女か……。
炎を操る魔術師は、争い事に駆り出され、敵を焼き尽くす。水を操る魔術師は火消しに重宝され、中でも凄腕の者は、怪我や病気を治癒する事さえ可能な神秘の力を操る者。
しかし、魔術師は絶対数が少ない為、世間一般にその存在は余り知られてない。この片田舎の村民が、その価値を知っている筈がなかった。
今はまだ魔術師の卵みたいなモノだが、それなりの教育を施し貴族に売り渡せば。
「……金貨三枚でどうだ」
【改正文】
「俺の娘は不思議な力を持っていてな」
そう話す男の視線の先には、地面に踞(うずくま)って震えている少女がいた。泣いているのか。
実の娘を自分の借金の為に売るような下衆だ。おまけにこの期に及んで薄ら笑いを浮かべている。営業スマイルのつもりか。こっちが金を取りたくなる素敵な笑顔だ。
「不思議な力、ねえ」
「信じられねえかもしれねえけどな、掌から火が出るんだよ」
「それは不思議だな」
魔術だ。一歩間違えれば大事故になりかねない力だが、大方この馬鹿は自分の雑用にでも使わせていたのだろう。そんな奴にこの娘の価値が分かる筈もない。
しかし、その話が本当なら――
「金貨3枚でどうだ」
この醜男の借金3倍でも安い。
それを聞いて、男の顔が潰れた。いや、これは笑顔だ。喜びすぎたショックで、丸めた紙くずに変化する魔術を習得したらしい。おめでとう。
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