唯一の執着

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   今まで、欲しいと思った物は全部、手に入れてきた。 もしくは……既に手に入っていた。 だから俺は、今まで強い欲求を感じる事が少なかった。 そして、いつの間にか自分は、執着心というものとは程遠いのだと思っていた。 けど……それは違った。 「コウ?」 ただ単に俺は、出会っていなかっただけだったのだ。 そう――本当に欲しいと思える物に……。 だから多分、今まで手に入れてきた物はきっと、偽りの欲求心が働いていただけだろう。 そう思えるのは、水谷一都に出会えたからだ。 「どうした、一都? 眠れねぇのか?」 「うん……」 初めて出会ったのは、一年前の道端でだった。 と言っても、俺が一方的に見ていただけだから……一都は知らない。 けれど、俺はあの時に初めて、欲しい物を諦める瞬間に遭遇した。 物に執着する奴は、諦める時に、あんなに寂しそうな顔をするのかと……一都の顔を見ながら、内心驚いた。 そして同時に、俺が一都を欲する瞬間になった。 あれから……ずっと、一都を――一都だけを欲していた。 欲しくて、欲しくて……堪らなかった。 そして……望み続けた末、やっと手に入れた。 しかし、その先に満足感なんて無かった。
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