缶コーヒーと、無愛想と無表情

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「もう卒業か?」 「そうですね、明後日が卒業式です。」 淡々と会話を交わしながら、頭の中では別の事を考えていた。 今なら、今告白すれば。規則と世間体に縛られたお巡りさんとしてではなく、一人の男性としての返事をくれるんじゃないか。 冷たい空気を小さく吸って、吐いて。吐息は白い煙となり踊るように昇って、消える。 レジ袋を持つ手に、ぎゅっと力を込めた。 「ハタさん、好きです。」 「……ガキには興味ない。」 「じゃあせめて、」 「煙草の銘柄も教えねーよ。」 時間にして僅か十数秒。淡い期待は、たった二言で粉々に叩き割られた。 いつもみたいに適当にあしらうのではない、明らかな拒絶。 私の手から滑り落ちたコーヒーの缶は、シャリ、と微かな音を立てて、路肩に積もった雪の中に埋まる。 「そ…ですか。」
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