缶コーヒーと、無愛想と無表情

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気がつけば季節は冬。高校3年生にとっては、勝負の時期。 つい数時間前まで本命大学の入試を受けていて、フル回転を終えた頭は靄がかかったようにぼおっとしていた。 そんな私の頑張りを称えてか、幸運が舞い降りてきた。 すっかり夜の闇に包まれた帰り道、昭明の光に吸い寄せられるようにぶらりと立ち寄ったコンビニで、ハタさんに遭遇した。 お巡りさんの制服じゃなくて、黒いジャケットに黒い細身のズボン。煙草の匂いをいつもより濃く感じたのは、これが私服だからだろうか。 ハタさんは私を二度見して、それから目を丸くした。 「お前こんな時間に何やってんだ? しかも結構な大荷物で。家出か?」 「失敬な。はるばる隣県の大学にまで、入試を受けに行っていたんです。その帰り。」 「へぇー、そりゃお疲れ。」 ハタさんマジック。雑な労いの言葉ですら、私の心をきゅうっと心地よく締めつける。
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