1.熱い夜

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「深見くん、この計画書、やり直して。」 菊谷茉衣佳(きくたにまいか)先輩が、僕の前にかかげたのは、今朝提出したばかりの書類だった。 「え?どうしてですか?」 自分でも恥ずかしいくらい素っ頓狂な声が出た。 「ここ」 先輩が指差す。 「来年度の販売目標が、前年比マイナス20%なんだけど?」 「あれ?」 何度も書類を見るが、マイナスになっている。 僕、深見玄斗(ふかみげんと)が働いているのは、スーパーマーケットやショッピングセンターなど、生鮮食品の小売り販売を主とした大型商業施設を展開しているマナトモグループ。 その商品部の日用品部門で、各店の商品管理をしている。 僕は、大学卒業後、入社してから3年間は店舗業務に携わっていた。しかし、もともと本社の仕事に興味があったので、本社異動を志願し、試験を受け、晴れて本社勤務になった。 それから一年は、3歳年上の菊谷先輩の指導のもと、業務に携わっている。 ちなみに、菊谷先輩の役職は『リーダー』、課長と一般社員のサポートが役目だ。 「マイナスなわけが・・・」 思わずごもる。ケアレスミスだ。 「各店から送られてきたデータの数字を、フォーマットに入れるだけでしょ?この前は、肝心の統計データが抜けていたし、ちゃんと提出する前に見返している?」 「はい。」 「だったら、今年の販売目標が前年よりマイナスだなんて、ウチの会社、やる気がないにもほどがあるでしょ。」 菊谷先輩の呆れたような口調にうなだれる。 「すみませんでした。やり直します。」 なぜ気づかなかったんだろう。情けない。 「頼むよ、深見くん。 最近、よく遅くまで、仕事しているでしょ? 君のがんばり、こんな小さなミスでダメになって欲しくないわ。」 「はい、気を付けます。」
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