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「あぁ~久々に呑んだかも♪」
すっかりご機嫌な菊谷先輩。
今夜は、今年度の慰労を兼ねた会社の送別会だった。
日配部門の樋口課長が、岡山の店舗に異動になった。
新しい形態の店舗がオープンするらしい。
もともと現場向きの人だから、寂しくなるが、喜ばしくもある。
二次会が終わり、樋口課長は気の知れたモノ同士で、三次会へ。
皆三々五々に散り始めた。
「あ、綾津かちょー!」
先輩が、嬉しそうに手を振る。
「菊谷リーダー、ずいぶん呑んだねー。」
陽気な先輩に応じる、綾津至(あやついたる)課長。にこにこ顔で、イケメンぶりが溢れる。
明るくて、少しドジで、人柄のいい僕たちの上司だが、『恐怖の寸止め課長』とか、よく意味がわからないアダ名がついているみたいだ。
「すみません、綾津課長。菊谷先輩をタクシーに乗せてきます。」
「うん、深見くん、よろしくね。」
そう言うと、課長はピラピラと手を振り、後ろにいた3人の女子社員とカラオケボックスの方へ行ってしまった。
僕は、すっかり千鳥足な菊谷先輩を介抱しながら、大通りでタクシーを探す。
「ほら、先輩しっかりして。
今、タクシー探しますから。」
本当に、普段は冷静沈着な菊谷先輩がこんなに呑んでいるのは、初めて見るかも。
いつもとのギャップに、様々な感情が僕の中を飛び回る。
「あ、ねぇ、せっかくだから、深見くん、君も家に来て呑む?」
「は?」
菊谷先輩の突然の言葉に驚く。
「まだまだ呑み足んないのよね~。家で一人で呑むの寂しいし。
よし、決めた!リーダー命令だ!君もきたまえ♪」
「え、ちょ……。」
僕の言葉を待たずに、絶妙なタイミングでタクシーが近づいてきた。
「あ、ヘイ!タクシー♪私の家までヨロシク~。」
ど、どうしよう。
いや、でも、密かに憧れてる菊谷先輩の家に行けるのは最高なんだけど。
いや、そうじゃなくて、
先輩独り暮らしだって言ってたし、男の僕があがるのはさすがにまずいだろ…。
悶々と考えながらも、ちゃっかり、先輩とタクシーに乗り込む僕。
考えてる間にもタクシーはどんどん、先輩の家に近づいていく。
(※[40])
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