1.熱い夜

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*** 「あぁ~久々に呑んだかも♪」 すっかりご機嫌な菊谷先輩。 今夜は、今年度の慰労を兼ねた会社の送別会だった。 日配部門の樋口課長が、岡山の店舗に異動になった。 新しい形態の店舗がオープンするらしい。 もともと現場向きの人だから、寂しくなるが、喜ばしくもある。 二次会が終わり、樋口課長は気の知れたモノ同士で、三次会へ。 皆三々五々に散り始めた。 「あ、綾津かちょー!」 先輩が、嬉しそうに手を振る。 「菊谷リーダー、ずいぶん呑んだねー。」 陽気な先輩に応じる、綾津至(あやついたる)課長。にこにこ顔で、イケメンぶりが溢れる。 明るくて、少しドジで、人柄のいい僕たちの上司だが、『恐怖の寸止め課長』とか、よく意味がわからないアダ名がついているみたいだ。 「すみません、綾津課長。菊谷先輩をタクシーに乗せてきます。」 「うん、深見くん、よろしくね。」 そう言うと、課長はピラピラと手を振り、後ろにいた3人の女子社員とカラオケボックスの方へ行ってしまった。 僕は、すっかり千鳥足な菊谷先輩を介抱しながら、大通りでタクシーを探す。 「ほら、先輩しっかりして。 今、タクシー探しますから。」 本当に、普段は冷静沈着な菊谷先輩がこんなに呑んでいるのは、初めて見るかも。 いつもとのギャップに、様々な感情が僕の中を飛び回る。 「あ、ねぇ、せっかくだから、深見くん、君も家に来て呑む?」 「は?」 菊谷先輩の突然の言葉に驚く。 「まだまだ呑み足んないのよね~。家で一人で呑むの寂しいし。 よし、決めた!リーダー命令だ!君もきたまえ♪」 「え、ちょ……。」 僕の言葉を待たずに、絶妙なタイミングでタクシーが近づいてきた。 「あ、ヘイ!タクシー♪私の家までヨロシク~。」 ど、どうしよう。 いや、でも、密かに憧れてる菊谷先輩の家に行けるのは最高なんだけど。 いや、そうじゃなくて、 先輩独り暮らしだって言ってたし、男の僕があがるのはさすがにまずいだろ…。 悶々と考えながらも、ちゃっかり、先輩とタクシーに乗り込む僕。 考えてる間にもタクシーはどんどん、先輩の家に近づいていく。 (※[40])
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