1.熱い夜

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「あ。私、一発芸出来るよ?」 「へ?」 良い感じの雰囲気はどこへやら。 突然立ち上がった先輩は、ウォッカの瓶とチャッカマンを手にする。 わからない。 酔っている人はわからない! 「火炎放射~!」 ウォッカを口に含んで、そのまま霧状に吐き、同時に着火。 古典マジックの1つ。 へぇ、先輩、そんなことできるんだ。 僕はほほえましく、その姿に興じようとしたが、すぐ我に返った。 「せ、先輩!すぐに止め…!」 気付いた時にはもう遅し。 思わず見上げた天井には、最近テレビCMで見た、スマートなデザインの火災報知機。 課長と同じアヤツという会社だったから、なんとなく憶えていた。 そのAYATSU社製の火災報知機が室内の異常な温度変化を感知し、その本分を発揮。 サイレンが真夜中の住宅街にこだまする。 「すみません、本当に夜分にすみません!」 酔いが回ったのか寝てしまった先輩の代わりに、近隣近所の皆様に謝る僕。 「いい加減にして!彼女ぐらいしっかりみなさい!」 眠りを妨げられた近隣住民の顔は、夢であって欲しいくらい怖い。 恋人同士と間違われて、ちょっと嬉しい♪なんて気持ちは全くなく、ただただ疲れた。 でも…。 「ご、ゴメンね。」 舌をチロッと見せて、両手をあわせて謝る先輩を見たら、なぜか許せてしまう僕。 僕の気持ちはまだ鎮火出来てない。
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