33人が本棚に入れています
本棚に追加
「あ。私、一発芸出来るよ?」
「へ?」
良い感じの雰囲気はどこへやら。
突然立ち上がった先輩は、ウォッカの瓶とチャッカマンを手にする。
わからない。
酔っている人はわからない!
「火炎放射~!」
ウォッカを口に含んで、そのまま霧状に吐き、同時に着火。
古典マジックの1つ。
へぇ、先輩、そんなことできるんだ。
僕はほほえましく、その姿に興じようとしたが、すぐ我に返った。
「せ、先輩!すぐに止め…!」
気付いた時にはもう遅し。
思わず見上げた天井には、最近テレビCMで見た、スマートなデザインの火災報知機。
課長と同じアヤツという会社だったから、なんとなく憶えていた。
そのAYATSU社製の火災報知機が室内の異常な温度変化を感知し、その本分を発揮。
サイレンが真夜中の住宅街にこだまする。
「すみません、本当に夜分にすみません!」
酔いが回ったのか寝てしまった先輩の代わりに、近隣近所の皆様に謝る僕。
「いい加減にして!彼女ぐらいしっかりみなさい!」
眠りを妨げられた近隣住民の顔は、夢であって欲しいくらい怖い。
恋人同士と間違われて、ちょっと嬉しい♪なんて気持ちは全くなく、ただただ疲れた。
でも…。
「ご、ゴメンね。」
舌をチロッと見せて、両手をあわせて謝る先輩を見たら、なぜか許せてしまう僕。
僕の気持ちはまだ鎮火出来てない。
最初のコメントを投稿しよう!