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暗闇の中、心が押しつぶされそうで息を殺す。
窓の外では槍のような雨が地面に突き刺さっている。
電気もガスも止まっている体感温度零度<れいど>の部屋で、私の吐く息は白く濁る。
手元にあるのは、ガスコンロと錆びたヤカンのみ。
すっかり冷め切った紙コップに入ったコーヒーに、ブランデーを注いで一気に飲み干すと、
喉の焼けるようなに熱さに思わずむせ返った。
手をさすりながら、コートのポケットを探る。
中のレシートに手が触れるたび、擦れて皮膚がめくれるのが分かる。
ようやく下の方から、くしゃくしゃになった、タバコの箱を取り出して、ガスボンベの残り少ない貴重なコンロのスイッチを回す。
カチカチカチ…と弱々しい音を立てて、今にも消えそうな小さな炎にタバコをくわえた口を近づける。
なかなか火がつかないのに苛ついて、思わずフィルターを強く噛む。
勢い良く息を吸い込むと、タバコの先が赤く灯って、ゆらゆらと煙が上がってきた。
時折意識が遠くなる頭を落ち着けようと、目を閉じて煙を深く吸い込むと、舌にピリピリとした刺激がやってくる。
明日のことは明日考えよう。
今日も息を潜め、この新宿<まち>の夜が明ける時を待つ。
寒さと眠気でぶるっと手が震え、灰が膝に落ちてケミカルウォッシュのジーンズに穴を開けた。
その時、赤い光とけたたましいサイレンが聞こえ、私は慌ててタバコを紙コップにねじ込む。
小さくなるはずもないのに、必死に腕を交差させ両肩を掴み、力を込める。
強く、もっと強く、このまま消えてなくなれ…。
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