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「ぶははは。お前本当に面白いな。当然逃がしてやることはできないが。お前俺たちと一緒に来ないか?」
言って四季さんの肩に手を置く。少し感情がざわついた。気安く四季さんの触れるな。ゆかりがこの世で一番大切にしているものに傷一つでもつけたら許さない。
首を振って頭の温度を下げる。怒りは判断を鈍らせるからだ。一人の男が店内に四季さんたちと入っていく。俺はそれを見計らってポケットから煙草を取り出す。海外製のもので独特の匂いがする。ゆかりと四季さんはこの匂いが嫌いなので最近は吸っていないが、気持ちをポケットの中にいつも忍ばせている。俺の禁煙の秘訣はいつでも吸えるという安心感を持つことなのだ。煙草をくわえて火をつける。煙を吸わないようにすぐに口から離して店の前に投げる。
しばらくして、店の前に立っていた男が煙草の煙と匂いに気が付いてゆっくりとこちらに近づいてくる。じっと体を岩のようにして動かずに男が来るのを待つ。
「なんだ? 煙草か?」
男が煙草を拾おうとした瞬間全身をばねの様に伸ばして男に近づく。男がこちらを振り向いた時には俺の右こぶしが男の顎を打ち抜いていた。糸の切れた操り人形のように男が倒れ伏す。手際よくこの男も車庫に放り込んだ。
店内を覗くとカウンターに座っている男が二人。居場所を確認して身を低くして入り口近くまで行く。店のドアに思い切り石を投げつけた。店内にガラスが飛び散り大きな音がした。俺は同時に店の入り口とは逆方向の窓ガラスから店内に飛び込む。男二人は予想通り扉の方を向いて立っていた。全力で二人に接近する。右手に拳銃を持っている方を確認する。こいつがボスだろう。ボスの目の前で急停止して右腕を小さく畳んでコメカミを思い切り右フックで打ち抜いた。ボスが床に倒れて拳銃が床に転がる。
「手前ぇ」
叫んでもう一人の男が拳銃を拾おうとした。
「馬鹿」
俺は小さく呟いて屈んだ男の顎を思い切り蹴り上げた。大きくのけぞって男が大の字に寝転がる。
「これで全員かな?」
店内を見渡す。とりあえず他の人間の姿は見えない。というか四季さんの姿も見えなかった。
「四季さん?」
カウンターの中にでも隠れているのだろうか。ゆっくりとカウンターに近づいたとき、嗅ぎ慣れた匂いが鼻をついた。俺の煙草。思った時には体をのけぞらせていた。
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