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カウンターの下から男がナイフを突き上げてきていた。紙一重でよけた服がスッパリと綺麗に裂けた。
「残念」
聞き覚えのある声だった。ボスの声だ。拳銃を手下の一人に渡していたらしい。どうやら四人組というのは俺の勘違いで一人は隠れていたようだ。カウンターの上に開けられた俺の煙草が置かれていた。おそらく四季さんがボスに吸わせていたのだろう。危なかった。煙草の匂いがなければ俺は死んでいたかもしれない。ボスはにやにやと笑っている。目出し帽をかぶっていても目と口元だけでそれが分かる。
「あんた、素人じゃないだろ」
「さぁね」
男はナイフを構えるとまっすぐ突っ込んでくる。かなりのスピードだった。こちらの胴を目指してまっすぐナイフを突き出してくる。両手の動きそれだけに集中して、こちらも両手で相手の手首を思い切り掴んだ。ボスが驚いた表情を浮かべる。同時に前に思い切り引き倒した。ナイフが床を滑っていく。右手を掴んだまま背中側にねじりあげる。ボスをうつぶせにして抑え込む。
「お父さん!」
カウンターの中から四季さんが顔を出す。どうやら怪我はしていないようだった。思わずほっとする。ほっとしてしまった。左足に激痛が走った。ボスが左手に小さなナイフを握りこんでいた。ナイフが俺の太ももに深々と刺さっている。にやりとボスが笑った。しかし、俺はまったくねじりあげた腕を緩めない。ボスにとっては予想外の事態だったのか再び驚きの表情を浮かべる。俺はボスの耳元でボスだけに聞こえるように言った。
「素人と玄人の違いを教えてやるよ。人間を無感情に破壊する事ができるかどうかだよ。お前みたいに壊すことを喜ぶ奴はアマチュアだ」
それだけ言って、ボスの右肩と右肘を逆関節に折り曲げる。バキンと甲高い音がして骨が折れた。ボスが痛みに気を失う。
「いや、俺も素人だけどな」
自嘲するように笑う。
「お父さん!」
四季がカウンターから飛び出してきて抱き着いてくる。
「大丈夫ですか! 足!」
ああと呟いて自分の足を見る。ナイフが刺さっていて血がじわりじわりとにじみ出ていた。正直に言えば痛い。
「そんな事よりも四季さんは大丈夫ですか?」
「そんな事ってなんですか!}
怒鳴りつけるように四季さんが言う。目には涙が浮かんでいた。
「お父さんはもっと自分を大事にしてください」
「そうですね。ゆかりが悲しんじゃいますね」
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