私と橘君

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車は街から少し離れた住宅地の中を走る。 樹木が並ぶ一本道を直走り、長い坂道を登った。 桜並木は風に揺れて、残り幾ばくかの花びらが舞う。 白い正門には監視員がおり、清水は一言告げるとまた車を走らせた。 窓を開けて眉を寄せた恋麦に、橘は身を乗り出して顔を寄せる。 「広くてビックリした?」 高校のパンフレットに載っていた写真。 白い校舎が見当たらず、木々の隙間から覗く建物はそれとは違う。 一つの町だ。 コンビニ、小規模なスーパー、カフェ。 そういった店が点在している。 何故か信号機まであるし、駅もあった。 バスとすれ違い、子供連れの女性が歩いている光景に目を細めた。 「幼稚園から大学まで、一つの敷地にあるんだよ。特殊な学科があるから地方から来た学生も居るし、職員も多いんだ。就職は二都瀬関係にそのまま就けるからね。寮とか社宅とか、校内に作っちゃった方が便利でしょ?」 「なるほどねぇ・・・スーパーがあるのは嬉しい!」 「言うと思った」 2人が会話を交わす間に、車は突き当たりの信号機を右に曲がった。 暫く走ると広いグラウンドが右手に見える。 それから校門の前で車は止まった。 「ここが高校。もう直ぐここの生徒だからね」 入り口から少し先に噴水が光を浴びて輝いていた。 白い壁に、広く大きな窓が連なり、アーチ状の渡り廊下の屋根も真っ白である。 「すっげぇーっ!」 「広いから迷子になるかもね。そこら辺はまた説明するから、しっかり覚えて下さい」 「はーい」 再び走り出した車は、角を右に曲がる。 切り揃えられたツツジの道に、途中上に掛かる渡り廊下を見上げた。 「これ何?何処かと繋がってるの?」 「あー・・・うん。繋がってるけど生徒は通れない渡り廊下」 「なんで?」 「・・・ごめん」 何故か橘は謝った。 学校には受かったし、入る学科も決まっているが恋麦はそれ以外の事を橘から聞かされていない。 「後で話す」とだけ。 そして何も説明されないまま、ここに来てしまったのだ。 「何で謝った?」 「実は・・・」
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