163人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
「行き先違ってホッとしてるって顔……てことは、植物園に行くんや」
もう止せばいいのに、自分の口が止められない。
「この出口付近にあってデートっていうたら、他は植物園くらいしかないもんな」
「そやから、デートとちゃいますって!」
「植物園はビンゴなんやね?」
素直すぎる金太郎ちゃんは、実に簡単に俺の誘導に引っ掛かってくれる。
困って無言になった表情も……可愛い。
言ったら殴られそうだけど。
って、いつの間にか、「かいらし」が「可愛い」に進化してしまっているな……。
「今やったら何が見頃なんやろね」
「……」
「植物園なんて、もう長いこと行ってへんなあ」
「……」
隣を歩きながらあれこれ話しかけてみたけど、彼女は口を引き結んで、硬い表情のまま早足で歩いていく。
黙秘を決め込むつもりですか……。
でも、こっちもそう簡単に引かないよ。
こうなったら、見届けるまで、だ。
植物園で金太郎ちゃんが待ち合わせをしている相手は、ヤツに違いない。
今俺の中で99.9%の確信をもった予感が、100%の事実となるのかをこの目で確かめてやる。
その先の自分がどうなるのかなんて全く予想がつかないけど、確かめずにはいられない。
出口への階段を登り切ってすぐ、道路をはさんだ先に見える植物園のゲートへと目を凝らした。
「やっぱり」
つい、声に出してしまった。
樹だ。
最初のコメントを投稿しよう!