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「俺の名前知ってるんや! って樹から聞いた?」 どこまでも軽い調子で聞いてみたら、彼女は「はい」と即答してきた。 素直だね、本当に。 ……。 察していたことを確かめただけなのに、その答えがまた軽く俺をえぐる。 あー、今、自分で自分の体に塩を塗り込んだな。 こうして踏み込んでもお互いいいことないだろうに、どうして俺は俺を止められないんだ? 今までは常に相反する感情のはざまで揺れても、結局相手との摩擦を避けられる無難な方へと、自分を誘導するように生きてきた。 それは仕方なくということではなく、結果的に穏やかに事が収まるほうが俺自身も楽だからそうしてきただけだ。 それなのに。 自分の名前を呼ばれただけで、引こうとしていた感情が簡単に戻ってくるのを感じている。 相手が望むことを察知してそれに添うことを意識してきた俺にとって、自分でも意外なくらいの不躾な執着だ。 何が俺をここまで執着させるのか、未だに腑に落ちる答えが出ていないのに、走り出した感情が止まらない。 とはいえ、どこまでも臆病だから、軽薄男の仮面がなければ走れないのだけれど。 「なー、どうやって樹と知り合ったん?」 ……樹のこと、どう思ってるん? という言葉は呑み込んだ。それは、いろんな意味で地雷になる問いかけだと思ったから。 しかし彼女は俺の言葉は無視して、行き先を問うてくる。 そしてそれが植物園じゃないとわかったとたん、またあからさまに安堵の表情を見せた。
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