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やっぱり樹、なんだな……。
99.9%確信をもっての予感が事実として確認されただけなのに、思いの外落胆が大きい。
その落胆を自覚して、俺の中のどす黒さが翳(かげ)りを増す。
やだね、こんな俺。
昏(くら)さに溺れるには何もかも中途半端だろ、今の俺は。
金太郎ちゃんのことだって、そもそもこの感情が何なのかも見えていないのに、どうしてこうも一喜一憂してるんだ。
どうせなら、もっとぱーっと弾けるほうがまだ愉快だろ。
さ、テンションあげてこうか。
目の前の彼女は、ちらちらと樹を気にしながら、俺となんとか距離をとろうとしているのがアリアリだ。
そうはさせない。
横断歩道で信号待ちをしながらやきもきしている金太郎ちゃんのそばに立ってチャチャを入れてみる。
それに困惑する金太郎ちゃんがこれまた可愛い。
樹はどうしてるかな。
今俺たちが立っている横断歩道は、植物園の入口からはやや死角になっているけど、茶席でさり気ない目配りが出来る樹だ、多分すでに俺に気づいているはずだ。
本読んでるふりはしてるけどな。
樹くんにもちょっと大人の指導を入れないと。
なんでもかんでもとりすますんじゃねーぞ。
高校生のガキなんて、みっともなくてナンボだろ!
「ほら、信号青になったで。いこ!」
あえて彼女に手を差し出してみるが、金太郎ちゃんはやっぱり金太郎ちゃんだ。
「手を引いてもらわんでも、自分で行けます!」
子ども扱いされたと本気で憤慨している。
手を引く、なんて言い方もいい加減古めかしいけれど、それがまたなんとも可愛い。
結局俺の手なんて完全に無視して、彼女はタッと横断歩道を走ってわたる。
俺は歩幅を広げて、彼女の少し後ろをついていく。
ほら、樹がこっちをわかりやすいほど渋い顔で見ているし。
さーて、どう攻めようか。
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