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背後からの攻撃も意に介さない自信の表れか、はたまた挑発か。
無防備な背中をさらしたまま悠然と歩き始めた豚の姿が、突如陽炎のようにゆらめいた。
「いずれこの地は灰燼に帰するデブ。それまで束の間の平和を謳歌しておくデブね。・・ああ、それと」
身体の半分以上が闇に溶け込んだ時、何かを思い出したように首だけが翻った。
「このまま何の収穫もないまま帰るのは癪デブからねぇ。ちょっとした土産を置いていくデブ。開けてビックリ、気に入ってくれると嬉しいデブねぇ・・」
そのまま人の悪い笑いをクックッと残したまま、ゆらりと大きく揺れた豚の姿は、今度こそ完全に闇と同化した。
ぽう・・ぽう・・夢宿木の灯りが照らす大地に、静寂が戻る。
耳が聞こえなくなったのかと疑うばかりの静けさの中、ふっ・・と今まで張りつめていた糸が切れたかのように、モカはその場に膝から崩れ落ちた。
鼻腔をくするぐのはいつも通りの風の匂い。
手に伝わるのはいつも通りの土の感触。
だが同時に圧し掛かる、昨日まではずっと続くと思っていた平和が儚く壊れそうな予感。
ブルッ・・
夜風が急に冷たくなったように感じて、モカは身体を震わせる。
モカ=スターバクス14歳。
未来の小説家を夢見るこの少女は、これから自分が世界の命運を握る闘いに身を投じる事など、この時想像だにしていなかったのだった。
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