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その膨れっ面を見て、ふふふと相好を崩したブルマンは、しわがれた手でくしゃりとモカの髪を撫でた。
「まぁ、まだわからずとも良い。さて・・モカよ。急な話で悪いが、少しカカオと話がしたい。それ故、一人で番をしていてもらえるかね?」
思ってもみなかった文字通りの急な申し出に、モカの翡翠色の瞳が見開かれる。
だが、唐突な問いかけに一瞬困惑したものの、モカはブルマンの言葉にコクリと頷いた。
《ムッシュ》という謎の役目に就いて、約3ヶ月。
常に姉が側にいてくれたおかげで、寂しさとは無縁だったが、少しの時間とはいえ
「一人で番を」
と言われると急に不安が込み上げてくる。それでも
「(わたしだって、もう子供じゃないんだから)」
という妙な対抗心に後押しされ、気がつけば
「ぜんっぜん一人でだいじょーぶですからっっ!!ええ、そりゃあもう、泥船に乗ったつもりでお任せあれ!!」
と、心の内とは正反対の言葉を吐いていた。
「・・本当に大丈夫なの?まぁ離れると言っても近くにはいると思うから、何かあったら呼びなさい。すぐに駆け付けるから」
「おねぇちゃぁん・・」
幾分気遣わしげな姉の言葉が優しく染み渡る。
「あと、気を抜いて居眠りをしないように。あなたの猛獣のような寝言とイビキと歯ぎしりは、どこにいても聞こえるから・・すぐにバレるわよ」
「お姉ちゃん!!」
顔を真っ赤にしてぴょんと跳ねるモカと、冷静に大剣を背に備えるカカオのやり取りを、クツクツ笑いながらブルマンが見守る。
こうして二人が去ったあと、一人ぽつんと残されたモカは、所在なげに足元の草を弄んだ。
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