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「あ・・あれ・・?これ・・何・・?」
辺りを見回すと、この霧が這い出ずる起点が例の《開かずの扉》であることは一目瞭然だった。
「ちょ、ちょっと待って待って!!ここここれってヤバいんじゃ・・!?」
慌てふためくモカを挑発するかのように、黒い霧は一ヶ所に集まったり、散開したりを繰り返しつつ、ゆらゆらと宙をさまよう。
「こ、こら!戻って!戻れってば!!」
黒い霧に向かって長槍を振り回し、突き刺そうと試みるが、刃はすぅ・・と虚しく通り抜けるのみで、何の変化も見られない。
まるで玩具と戯れるようにゆらゆらと漂う霧状の物体。
その不気味な外見と、体の内側から湧き上がってくるような寒気から導き出される答えとしては、善いものである可能性は限りなく低い。
体中から冷たい汗が一気に噴き出す。
さりとてこの状況を収める有効な手段を見出だせず、息を止めて黒い霧の動向を見守るしかないモカの耳に、遠くから自分を呼ぶ声が聞こえたのはその時だった。
「お姉ちゃん・・?お姉ちゃん!!!」
空耳などであるはずのない、最も信頼する人間の声が聞こえた方向に向けて、モカは必死に助けを求めようとする。
だが集中力の全てがそちらに向けられた事により、モカは背後の異変に気付かなかった。
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