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ズズッ……
モカの背後で静かに、渦を巻くように集まった霧の中から無数の腕が伸びる。
まるで影がその領域を広げていくように密やかに。
そして獲物に狙いを定めた獣のように気配を消したまま伸びた触手が、今まさにモカの首筋に届こうとした瞬間--
薄闇を切り裂く峻烈な声が飛んだ。
「モカッッ!!」
ぐんぐん大きくなる、ただ事ではない姉の様子。
そして普段殆ど聞くことのない叱声に驚き、息を止めたモカの両腕、そして首をうねうねと蠢く黒い触手が掴んだ。
「か・・はっ・・!?」
霧とは到底思えない質感、そしてそこに込められた恐るべき力が、モカの華奢な体をギリギリと締め上げる。
「お・・ね・・ちゃ・・」
頸動脈だけでなく、骨も折れよとばかりの締め付けにより意識が遠のいていく。
手にした長槍がガランと大地に転がり、様々な人々の顔が《ゆめりぎ》の灯火のように浮かんでは消えていく中、閉ざされようとする視界の隅に閃光が奔った。
ザオッッ!!!
隼の如き俊敏さで飛び込んだカカオの大剣が、抜剣と同時に恐るべき速度で振るわれる。
瞬きをする間もなく全ての戒めを絶ち斬ったカカオはモカをその腕に抱えると、尚も追いすがる触手を切り払い、後方へ距離を取った。
何が起こったのかすらわからず、目に涙を滲ませながらコホコホと咳き込むモカを守りつつ、カカオは油断なく大剣を構える。
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