第九章

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「違うだろう」 笑い混じりの低い声と 「違います」 低く静かな声が響いた 一瞬の静寂の後 ピリッとした 肌を刺すような空気を 纏う真人の 伏せていた目蓋が 押し上げられていく う・・・・・・、怖い 真正面を見据える目の 白い部分が青白く光り ゾクッと 背筋が凍り付きそうな 「あんたに何が分かる」 険しさを孕んだ 「人を思いやる時にするあの表情は昔からだ。最近、少し華やいで見えるようになっただけ」 ドキン 柔らかな言い方に 心臓が跳ね上がり 消え入りそうな語尾に ハッと 声を上げそうになった 口元へ 押し当てた手が 震えてしまう 「存じ上げております。美しい瞳から翳りを取り去ったのは俺なので、説明していただく必要はありません」 岩田・・・・・・、が 「ガキの独占欲か」 想いを寄せる相手は 「どう仰られても、栄一の愛を勝ち得たのは俺だという事実は変わらない」 不意に 江藤の顔が浮かんで 消えた 知りたくない 気付きたくない 『よう、桜田』 もう二度と 恋で友人を失いたくない 長くもない髪を 耳に かけるフリをして 手の平を 両の耳に押し当てた
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