第九章

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不安が不安を呼んで どっぷりと 想像の世界にはまり込んだ 俺は 女々しい考えから 抜け出そうと 『かわいい、栄一』 甘さを含んだ声を 思い出し (あの声も暴漢に襲われてから、聞いてないなあ) 地底に潜れそうなほど 気分を 落ち込ませた 「桜田くん、忍くんが訪ねてきてるんですって、迎えに行ってくれるかしら」 忍くんかぁ 帰宅した佐藤営業部長との 惚気を 聞いて欲しいのだろう 「はい」 人の幸せを聞くのも 気分転換になる そう思っていたせいで 「・・・・・・さっ、ちゃん」 目を赤く腫らした忍くんに かけるべき言葉を 見つけられず ・・・・・・・・・・・・・・・、 立ち尽くしてしまった そんな俺の手を 縋るように掴んで 「祐ちゃんが・・・・・・っ、ひっく 帰って こない」 仕事で 大変な思いをしたと 聞いたから 疲れを癒やして欲しくて 好物の 餃子を大皿いっぱいに 作り置き 帰宅したらすぐに 焼いてあげようと 一晩中待っていた 「ぼ・・・・・・っ、く、 嫌われ ちゃってたの、 かな 裕ちゃんに」 語る忍くんの 小刻みに震える背に 腕を回して 強く抱き締めた
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