第九章

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行ってきます 微笑んで出かけた男の 隣に佇む 人影は 見知らぬ人か それとも 俺のよく知った人なのか 耳に唇を寄せ 囁く声は甘い? それとも・・・・・・ 膨れ上がった嫉妬心が 喉に詰まって ぐうっと 変な音を立てた 「桜ちゃん・・・・・・?」 忍くんの ペンだこの見て取れる 白い指先が チョン 俺のまつ毛の先端を揺らし ポタリ 落ちた雫に動揺してしまう 「あ、 いや、 その」 悲しんでるのは忍くん なのに 仲睦まじく寄り添う 真人と岩田を 想像して泣くとか 「ごめん・・・・・・っ、、あの、何かあったのかもしれないし、出社してるかを確認してみようか」 バカすぎる、俺 顔を右腕で隠しつつ 残った左手で エレベーターのボタンを 押そうとして 「おい」 「え?」 伸ばした俺の手を阻むように ドン! 叩き付けられたゴツい手 「ここで何をしている」 眉間に深いシワを寄せた 真人の 鋭い眼差しに じっと見据えられ 生きた心地がしないまま 冷や汗を タラタラ流す俺から 一瞬だけ ズレた視線が忍くんを捉え 直ぐに 俺へと戻した真人の 「チッ」 ものスっゴい 不満を伴う低い舌打ちが エントランス中に 響いた
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