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「いいえー、ご丁寧にどうも」
カツ カツ
ハイヒールの音を響かせ
エレベーターに
乗り込んだ彼女の
瞬き一つしない
くっきり二重の大きな目が
弧を描いた
「確かぁ、Tホテルのエイジング企画してましたよねー。いい機会ですから、ちりめんジワと生臭い加齢臭のダブルケアを提案しては如何ですかあ?
若い子の隣に自信を持って立つ主任さんには不要かもしれませんけど
では、失礼しましたー」
痛烈な皮肉に
頬を叩かれたと思った
エレベーターが閉まり
俺に冷ややかな目を
向けていた
彼女が見えなくなるまで
食い縛っていた
奥歯が痛い
・・・・・・・・・・・・・・・ッ
どうして
梶川より10年も先に
生を受けてしまったのか
アイツより先に老けて
衰えて
弱っていく自分の未来を
直視するのは怖い
梶川を
好きになればなる程
怖くて
告白出来ずにいる
俺の不安を突いた彼女の
『ちりめんジワと生臭い加齢臭』
言葉は
振り払っても振り払っても
追いかけてきた
「お疲れ様です栄一さん。夜道を一人で歩くのは危険な行為はさせられません、送らせて下さい」
さり気なく
背中に添えられた手から
逃げるように
前へ出たのは
加齢臭を気にしたせい
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