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~scene 1~
ベッドサイドの灯りだけを頼りに、俺はいつものサクソニーブルーのシャツに袖を通した。
「……もういくの?」
小さく、まだ余韻の抜けきらない甘い声がほの暗い部屋に漂う。
「仕事が残ってる。起こすつもりはなかった」
ブラックのスーツジャケットに身を包めば準備は完了。
俺はこれから、修羅の場に赴かねばならない。
「煙草の匂いがしたから……目が覚めたわ」
そう指摘され、俺は自分の咥え煙草から立ち昇る青い煙を見やった。
コレは俺を冷静へと導く標。
時として猛る感情を押し殺す為に必要不可欠なモノで、片時も手離せない。
そのせいか、巷で囁かれる俺の異名は『シガーウルフ』。
「私、今夜はここに泊まっていくわ。明日は仕事オフだし、チェックアウトまで思い切り寝てやるの」
「それがいい。お前もたまにはゆっくり休め」
同じ女と二度は寝ない。
そういう主義である俺が、この理賀子とはもう……47回同じ夜を過ごしている。
理賀子の方も、何を好き好んで俺のような10も歳の離れた、しかも未来など約束できない男と逢うのか、自分でもわからないと言っていつも笑うのだ。
俺の素性を知っている数少ない生きた女……、とだけ今は言っておこう。
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