第2章

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「企業連は本格的にクレイドルの運用を始めるようだな。いずれ全人類が空で暮らすことになる……って、これマジかね?」 「俺たちがとやかく言うことじゃない。企業連が言うんだからそうなんだろう」 コロニーのラウンジで俺は同業者のデニスといつもの他愛ない会話を繰り広げていた。 デニスはたいして政治に詳しくないくせに新聞を広げて難しい表情をしている。 俺はいつものように濃いコーヒーをすすりながらデニスの話に相槌を打つ。 高度七千メートルに浮かぶ巨大な空中プラットフォーム『クレイドル』。汚染の少ない上空で人々を延命させるというその計画は、もう既に最終段階までに来ているようだった。 「このクレイドルってやつの運用資産はどこから来るんだ。飛ばすための燃料は? ああ、それはコジマ粒子でなんとかすんのか……いや、それじゃあ一般人への汚染はどうすれば……」 『コジマ粒子』というのは、前述にもある次世代のエネルギーの燃料のことである。発見者にちなんで名付けられたというそれは、化石燃料や電気などよりもはるかに大きいエネルギーを生み出すことが可能で、今の技術力はコジマ粒子によって確立されたと言っても過言ではない。 しかしその反面、コジマ粒子は広範囲かつ長期にわたり、環境を汚染する性質があるのだ。それはもちろん人間にとっても害があり、コジマ粒子を主な燃料としているネクストに搭乗している俺たちの身体はすでに汚染まみれである。 なのでネクストに乗る傭兵、「機械に繋がれた者」の意味で『リンクス』と呼ばれる俺たちの寿命は総じて短い。 「不透明な部分が多すぎる。こんなんでよく決議が通ったもんだ」 「焦ってるんだ。このままじゃ人類は絶滅してしまうかもってな。だから一刻も早く清浄な空間を求めてる。いずれ俺たちにも来るだろうな」 「何が? まさかクレイドルに俺たちの居住区が?」 「そうじゃない。テロからの防衛任務だよ」 俺たちがクレイドルに住むなんてのはありえない。汚染まみれの人間には汚染された地上に住むほかはないのだ。
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