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「ご趣味はなんですか?」
身内に促されるまま、見合いというものを組まされてしまった。相手の男性からお決まりの質問が飛ぶ度、彼女――呉羽(くれは)ミサは困ってしまう。
趣味、とは。
暇つぶしの道楽。仕事以外の快楽。時間がある時、あるいは生涯をかけた生き甲斐の類か。定義などいくらでもできよう。
無論、呉羽にも趣味はある。休息代わりに悦楽を供給できるものという意味でなら、ある。しかしそれを口にした場合のリスクも、重々承知しているつもりだ。
「……音楽は聞きます」
「奇遇ですね。僕もです。どんなジャンルがお好きですか?」
「そう、ですね」
だから、逃げ道の趣味を作ることも覚えた。読書、音楽鑑賞、ショッピング。二十代の女性らしい模範回答の趣味を。
本当は音楽なんてテレビCMやカーラジオからの情報でしか知らない。最近流行の歌だって、サビを一、二度聞いたことがある程度。
それでも、普通の人らしく振る舞うために見せかけの笑顔を作る。
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