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今日もつまらないほどの平凡な男と一人、平凡な話をやり切って一日が終わった。
誰もいなくなった和室で、窮屈に感じる帯を緩める。きっと身内が見たら「はしたない」と激高しそうだが、誰もいないのだからいいではないかと思った。
「ふう……」
卓上に置かれた、冷めきった緑茶に手を伸ばす。薄く緑に色づいた水面も眺め、揺らし――そのまま戻した。
代わりに巾着の中身を漁る。長財布さえ入れられない、機能性皆無の桃色の巾着から出てきたのは、和装女子には似つかわしくない銘柄の煙草だった。
同じく巾着に入れていた安物のライターで火をつける。口に運び、ぷかりと煙が吐かれた。
「見合いの場で着物着崩して煙草をふかすとは。なんつーお嫁さんだか」
煙をゆっくりと吐いていたら、奥の襖から不服そうな声が聞こえた。心地よい重低音――「相棒」の声だ。
「……人払いは済ませてあるから大丈夫よ。あなたも一服どうかしら」
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