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す、と静かな音を立てて襖が動く。現れたのはしっかりした体つきの男。呉羽もよく知っている。彼女の「趣味」の「相棒」――十和田(とわだ)。
「あら、怖い顔をして。煙草あげるから機嫌直してよ」
「生憎とこれが生まれもった顔だ。それに俺はメントール入りの煙草は吸わん」
わかってるだろうそれくらい、と言いながら十和田は対面に腰を下ろした。胡坐を組み、声のトーンをもう一段階落とす。
「出番だ。今夜十二時」
「煙草くらいゆっくり吸わせてよ」
「俺が声を掛けるまでに一本吸ったろうが」
「たった一本よ」
呉羽はつんと唇を尖らせ、新たな煙草に火をつけた。十和田は呆れたように嘆息する。
「勝手にしろ。だが俺も話はさせてもらう」
「強情ね」
「そのまま返してやるよ」
メントール入りの煙草なんて邪道だと十和田は言うが、とんでもないと呉羽は思う。苦味だけが残る煙を吸うのは性に合わない。
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