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見ると、一輝はカメラのレンズを真央に合わせて構えてる。 「あ、今、私を撮りました?」 「す。すみません。いい笑顔だったのでつい」 「嘘~っ。汗でメイク崩れてるし、絶対変な顔です。見せてください」 「あ、これフィルムカメラなんで」 「嘘。絶対嘘、見せて」 真央が重ねていうと、一輝は渋々さっきのデータを見せてくれた。 画面いっぱいに真央の笑顔が大写しになっていて、その背景にぼやけた灯台が映り込む。額に汗がにじんでるし、髪は海からの風でぐしゃぐしゃだ。 けれど、真央の表情は、些細な粗が気にならないくらい、いい笑顔だ。自分の顔を覗き込んだ真央は、複雑な思いで一輝に確かめる。 「…これ、サイトにアップしたりしないですよね」 「しませんしません。…ほかの人になんて見せたくないです」 「…じゃあ、削除はしないでおいてあげます」 「ありがとうございます。あ、灯台バックにもういちまいどうですか?」 ペースに乗ってくると意外に厚かましい男かもしれない。そう思いながらも、真央は彼の指示する場所に立って、モデルを務めてあげる。 灯台にのぼった頃には、既に日が傾きかけていた。水平線に近づいた日輪が、空を茜色に染め、海の影を濃く彩る。シャッターチャンスだと言わんばかりに、一輝はカメラを構えっぱなしで、連写で何枚も写真を撮る。 真剣モードそのものの顔つきは、元の造作がどうであれ、カッコいい。 (自分の存在なんて、忘れてそうだな~) 諦めつつも、真央にはそれが不快ではない。やっと森一輝という人とIKKIが重なったのだから。 だが、じわりじわりと降りていった太陽が、ちょうど水平線とぶつかったときに、一輝は真央の方を見て言った。 「…また、会ってもらえますか? あ、でも…」 彼がまた余計な予防線を張り巡らさないうちに、真央は即答した。 「いいですよ」 今日という日が沈んでいっても、また明日は来る。ふたりのスタートはこれからだ。 (完)
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