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新しい寝床で寝るのも慣れてきた頃。
俺___ノアは、ギシリギシリと階段を踏む音で目が覚める。
「ノアー…おきてっかー…?」
様子を伺うようにキィーと小さな軋む音を立てて開くドア。
顔を出したその人とバチリと目が合う。
「ノアお前さ…めっちゃ耳いいんだな…」
彼はため息をついてパタンとドアを閉める。
「(そりゃあ、ドラゴンと生活していたからな。)」
ベッドの横にある机の上から、メモとペンをとり文字を綴る。
「〈なにか用事が?〉」
少しぎこちない文字だが、浮遊島にあった文献の知識を使ったから間違いはないはずだ。
「…本当に話せないのか?」
探るように聞いてくる彼____ラクス。彼は森でさまよっていた俺をここ、〈月光の森〉というギルドに連れてきてくれた。
話せない訳ではないが、人の言葉を上手く話せる自信はないし話す気もない。
「〈はなせない〉」
簡潔にそれだけを書き、ラクスに見せつけるように持つ。
「そうか……」
ラクスは目を伏せ、声をひそめるように言う。
「でも、それだとおかしいんだよな。」
「…?」
「だって、魔法には声が必須だから。」
………………
「〈そうなのか〉」
浮遊島では魔法を声に出さないで使っていたこともある。子竜達との鬼ごっこのときの黒い翼とか。
あれはフリューに教えてもらった魔法だから、なにか特別なのだろうか。
「そうなのかって……はぁ?どういうことなんだ?」
疑いの目がさらに深くなる。声も何処と無く不機嫌のようだ。
「〈ちがう なおす〉」
慣れない言葉は不便だ。
「〈自分は、人間のつかうコトバがはなせない〉」
「あぁ?そんなことあるわけないだろ…」
ため息をついて、呆れたような目で見てくるラクス。
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