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そこは、たくさんの緑溢れる場所。まるで桃源郷のようで。
リンから降りたノアは水面を覗き込む。そこには黒髪黒眼の紛れも無い、人間が映っている。
ドラゴンしかいない、この島で唯一の人間。拾われたことを後悔していないし、人間の世界に未練もない。けれど、その事実がどうしようもない寂しさをノアに与えた。
『のあー!!』
子竜達の声でハッとする。
「(同じじゃなくても、俺たちはみんな家族……)」
フリューに救われた時のことを思い出して、小さく微笑んだ。
『のあがすきなやつ!』
『きのみとってきたの!』
『たべてたべてー!』
「(覚えてたのか…!)」
人間では食べきれない量(ドラゴンにはおやつ程度)の木の実を持ってきた子竜達に、〈人間のノアが食べられるくらいの量でいい〉と教えたのはついこの前。
人間とは普段関わる事のないドラゴンが、そのことを俺のために覚えていてくれた事がどうしようもなく嬉しかった。
『……ありがとう、リン、ロン、ラン。』
『『『どういたしまして!』』』
子竜達は、木の実をあげると満足したのか〈遊んでくる〉とノアに告げ、遥か上空に飛び立っていった。
手元にある木の実は、桃色で柔らかい。これが何だかは知らないが、ノアはこれが好きだった。
養老の滝で軽く洗い、口に運ぶ。木の実の甘さと、喉を焼くような酒の味がとても美味しい。
もきゅもきゅ食べていると50メートルほど上空で、何かが途轍もなく速く飛んで行った。それも3回。
『リン、ロン、ランか…はぇー…』
『のあもあそぶ?』
『あそぼあそぼ!』
『おにごっこー!』
ノアの声が聞こえたのだろう、子竜達が周りに集まる。
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